韓国、ベルギーでのNVCの広がり

一人ひとりが、互いの大事なものを大切にしながら、関係性豊かな社会をクリエイティブに創造していくこと。NVC(非暴力コミュニケーション/共感的コミュニケーション)はそういったビジョンを持つ人たちによって世界各地で伝えられています。強制や義務感・服従・罪悪感からではなく、個人が喜びから全体性を生きることが、組織や社会を豊かにする。こういったNVCの精神的基盤は2018年に日本語訳が出版された『ティール組織』でも紹介され、今や企業や組織、教育機関などさまざまな人たちが関心を示すものとなってきました。

この「単なるコミュニケーション手法」を超えたNVCの深い学びは、世界でどのように伝えられているのでしょうか。

韓国NVCセンター長のキャサリン・シンガーさんとベルギーのNVCトレーナーカリローラさんと、日本のNVC実践者コミュニティがオンラインでつながって対話した内容をもとにご報告します(2018年7月来日時の採録をもとに編集)。

私費を投じて韓国NVCセンターを設立

世界でもっともNVCが普及している国として知られる韓国。この地にNVCを最初に伝えたのは、キャサリン・シンガーさんです。

キャサリンさんは、5歳で朝鮮戦争を経験したのちに、紛争を平和的な手法で解決することで内と外ともに平和な世界を作ることに深く関わることを決意。1970年に米国に移住し、1997年にNVC創始者マーシャル・ローゼンバーグ博士に出会いました。NVCと出会った当時はアメリカのカリフォルニア州に暮らしていましたが、韓国系であることから、マーシャルに勧められて、2003年に初めて韓国でワークショップを開催。2004年には韓国で最初のIIT(NVC国際集中トレーニング)を開催しました。 

韓国NVCセンター長 キャサリン・シンガーさん

当初はアメリカに戻る予定でしたが、韓国での反響がとても大きく「これは私たちにとって必要だ」「こどもたちにも必要だし、是非教えて欲しい」と熱いエールが寄せられたことから、韓国でNVCを伝えていくことを決意。私費を投じて2006年に韓国にNVCセンターを設立しました。2年後にはより大きなオフィスに移転し、現在はソウルのビジネス街にあるビルのワンフロアを韓国NVCセンターとして使っています。そこには3つのセミナールームがあり、5人の常任スタッフと数人のボランティアスタッフが働いています。

韓国には6人のCNVC国際認定トレーナー(NVCセンターによって認定されたトレーナー)がいますが、この他にも、27人の「韓国センター認定トレーナー」がいます。CNVCの国際認定トレーナーになるための国際認定プロセスから直接的な学びを十分に習得するためには、一定の英語力が必要です。一方、NVCを学びたい韓国の人たちの多くは、韓国で母国語で伝えていくための力をつけることに関心があり、そのためには英語力は必ずしも必要ではありません。そこでキャサリンは、韓国人が韓国語でNVCの学びを深めていくために、韓国独自のトレーナー認定制度をつくったのです。

教科書に掲載され、公教育の現場でも展開

韓国NVCセンターは出版事業部を立ち上げ、英語で出版されているNVC関連書籍のほとんどを韓国語で出版しています。そして、多くの人たちに学びの機会を提供したいと、各地を訪れ精力的にワークショップなどの学びの場を提供してきました。

大きな転機のひとつとなったのは、中学校2年生の教科書でNVCが紹介されたことでした。韓国政府教育部(文科省)が、教育においてコミュニケーションが重要であるとの認識を持ち、NVCの存在を知って中学2年生の倫理の教科書で紹介することを決めたのです。キャサリンたちはこのことを事前に政府から聞いていなかったので、後になって「教科書にでているよ」と知らせを受けて驚いたのだとか。

教科書ではNVCの4つの構成要素(観察・感情・ニーズ・リクエスト)なども紹介されていますが、当初は先生たち自身もNVCをよく知らないので、教えることができないという問題がありました。そこで、オンライン教材の制作会社と連携し、先生向けの映像教材をつくりました。そして政府に働きかけ、先生がこのオンライン教育を受けることを正式な学習として認めてもらえるようにしたのです。

喧嘩をしたら「きりん部屋」に

現在、韓国のいくつかの学校には「きりん部屋」と呼ばれる「共感的なつながりをつくるための部屋」が設けられています。これは、NVCが共感的な存在のシンボルとして「きりん」という表現を使うことに由来する名前です。喧嘩(対立)が起こったとき、こどもたちは「きりん部屋」に生徒たちに行きます。そして、NVCを学んだ大人から共感的に話を聴いてもらって、自分自身の怒りや相手に対する敵対意識を受けとめてもらい、大切なニーズ(大事にしたいこと)とつながり、つながりの感覚を手にして教室に戻るのです。

この取り組みは小学校1校から試験的に始まりましたが、評判がよく、現在は5校(小学校4校、中学1校)にまで広がっています。こどもたちが喧嘩した時「さっきまでは仲良しだったのに、どうしてこんな風に喧嘩になっちゃったのか知りたいんだ!」と言って「きりん部屋」にやってくる様子がとても可愛らしいのだと、キャサリンは語ります。課題は、この部屋がこどもたちに人気で、たくさんのこどもたちが一気に訪れてしまうということ。現在は、トレーナー二人が常駐し、NVCを学んだ保護者がボランティアに入るという運営方式をとっているそうです。初年度は、是非試してみてほしいと無償でトレーニングを提供しましたが、学校側から継続の要請を受け、2年目から予算がつくようになったとのこと。そして、今はこどもたち同士が共感を与えあえるようになるようにと、こどもたちに共感を教えています。

韓国NVCセンターの主要授業のひとつが教育事業です。NVCの1-2-3という基礎クラス(1が18時間、2が24時間、3が20時間)を通年で開催。それから、親向けや、個人の意識を深めるワーク、調停といったテーマで年間プログラムも提供しています。こども向けのプログラムにはSmile Keeper(スマイル・キーパー)というNVCゲームの韓国版をよく使うそうです。そして年に何度か、ファミリー向けのキャンプなども開催しています。

当初は親や先生をターゲットにNVCを伝えていましたが、現在は企業研修も積極展開しています。「調停」については、アメリカからCNVCトレーナーのジョン・キャニオンを3年間韓国に招き、年間プログラムを開催してもらいながら、韓国語で提供できるプログラムを作成しました。調停を学んだ人たちは「NVC調停協会」というフォーカス・グループをつくり、学びあいながら活動をしています。調停を学んだ人たちの多くはコミュニティサービスとして調停を提供していますが、法廷や個人を対象に活動する人もいます。また、「コミュニティ紛争解決センター」という形で公的な活動を展開し、刑務所や、問題を抱えた青少年、警察、ホームレスの人たちに、それから、北朝鮮から逃亡した人たちやその家族をサポートする非営利活動にも取り組んでいます。

このように、社会のさまざまな分野での活動を展開している韓国NVCコミュニティ。何年かに一度、NVCを学ぶメンバーが主要都市に集い、ビジョンを共有する場も設けているというその熱意にとても刺激を受けました。

「教育現場」から口コミで広がった、ベルギーのNVC

ベルギーにおいてNVCを伝えている第一人者、カリローラ(corrylaura)さんは、20年ほど前から教育の仕事に携わってきました。若い人たちが成長し、自らの可能性を広げ、共感的であることをサポートすることに情熱を感じていましたが、同時に、教育者のこどもたちへの接し方のなかによく見受けられる、ある種のポジティブさによる動機づけ(「xxをするといいよ」といった表現を使って、暗に誘導するようなアプローチ)に悲しさも感じていました。

彼女がNVCに出会ったのは1997年。マーシャル・ローゼンバーグ博士の著作を手にしたことが、彼女の人生を大きく変えるきっかけとなりました。「これこそが自分の本当に伝えたいことだ」と確信したのです。学校でこどもたちにNVCを伝え始めたところ、とても大きな反響があり、これといった宣伝はしなかったにも関わらず口コミで広がって行きました。多くの人たちに「こういったものが本当に必要だ」と歓迎されたのです。

何年か経つと、カリローラのもとに「NVCを学びたい」というリクエストが非常に多く届くようになり、自分だけではとても対応できないと考えるようになりました。そこで彼女はBlablaという名の組織をたちあげ、NVCを伝える体制を整えることにしました。

先ず、年間プログラムをつくって、人々が学びを深められる機会をつくりました。そしてインドのCNVC認定トレーナー、ナダさんから協力を得て、トレーナーを育成するためのトレーニング・プログラムの提供を開始。トレーナーになりたい人には自分たちの提供するプログラムにオブザーバーとして参加してもらう機会を提供しました。トレーナー希望者にトレーニングをオブザーブさせることに対して「競合相手を育てることになる」という心配の声を寄せる人もいましたが、カリローラはそのような捉え方はせず、お互いが安心して学びあえる環境をつくってユニークな方法で練習する機会をつくることを大切にしました。

このような活動を重ねていくうちに、学校や組織から、トレーナーのコミュニティに問い合わせがくるようになりました。現在、ベルギーのセンターの建物には2つのトレーニングルームと会議室があり、NVCトレーナー8人やセラピストら、合計13人でスペースを共有して使っています。

“現場”の声を尊重して、役立つものを届けてゆく

ベルギーでは年間約3,000人がNVCの講座を受講しています。そして、学校のほかにも、病院や青少年育成施設、ファミリー層やHIVのこどもたちなど、さまざまな人たちにNVCを伝えています。

10年ほど前から、こどもたち向けの教育プログラム「Smile Keepers」も使い始めました。実は導入当初は先生たちからの抵抗が大きく、あまり評判はよくありませんでした。ドイツではうまくいっているのに何故だろうかと考えていると、ベルギーの先生たちには、こういったことを学ぶ余裕がまったくないということがわかりました。そこで先ず、「先生たちに共感する」ということからはじめました。つまり「トレーニング」という名目のもと、実際には先生たちに共感するということに時間をさいてきたのです。そのようにしているうちに状況も随分変わってきました。先生は学ぶことに動機づけられ、生徒たちにも伝えていきたいという意欲を持つようになったのです。先生たちのアイデアに耳を傾けることは、とてもわくわくすることでした。ベルギーの先生たちは「Smile Keeper」は必ずしも使ってはいませんが、NVCの学びをもとに自分たちでつくった教材を使って授業をしているそうです。

NVCの学びを広く分かちあうためにできること

以下は、キャサリンとカリローラとのQ&Aセッションで語られたことをお伝えします。

Q: NVCの理解を社会に広める上で、どんなことを大事にしていましたか?

キャサリン:
草の根レベルも含めたくさんのトレーニングを提供することです。学校、コミュニティセンター、教会など、さまざまな場所に積極的にアプローチし、たくさんのトレーニングを提供しました。センターを立ち上げ物理的な場を設けて、NVCのトレーニングを常時提供する環境を持ったこともとても役立ちました。それから、NVCの本を母国語に翻訳したこと。NVCの書籍の出版社Puddle Dancersの提供するプレスキットも、メディアにアプローチする上で役立ちました。それから、IIT(NVCの国際集中トレーニング)を開催したことが、韓国の人たちに深い学びの場を提供する上で役立ったと感じています。ラジオ番組、テレビ番組、雑誌などメディアに取り上げられたことも、多くの人たちに伝えることにつながりました。

カリローラ:
ベルギーでも韓国と同じようなことが言えると思います。学校とか、組織から長期トレーニングをして欲しいとリクエストを受けることがあったのですが、最初はNOと答えていたんです。数日の入門講座しかやっていなかったので。でも、90%の場合、入門講座をやると「もっと学びたい」と言われたんです。最初は葛藤もありました。「是非やりたい!」と言っていた人たちも、長期的に義務で受けるという仕組みに入ってしまうと、クラスの雰囲気も変わってしまうと思ったんです。私たちは自立性に価値があると感じています。そこで、従業員や社員、看護師といった人たちに1-2日間受講してもらって、そこから、もっと学びたいという関心の高い人たちを対象に広げていきました。入門編を受講した人たちの口コミが大きかったと思います。ベルギーの各地で定期的に公開入門講座を開催しましたが、ティーンネージャー、先生、医者、etc.etcいろんな人たちが自分の意思で参加しました。そして参加者のうち熱心な人たちが「自分たちの組織にきて教えてくれない?」と招いてくれたのです。新聞とかラジオにインタビューが紹介されたことも、広がるきっかけになったと思います。

キャサリン:
韓国でも、同じようなアプローチをとっています。大学で無料の2時間の入門講座を開催したんです。すると大抵の場合「もっと学びたい」という声があがって、そこから、より長いトレーニングを提供することにつながりました。その他、ソウルや釜山といった大きな都市にいって年に1回無料講義を開催してます。今年は700人もの人が受講しました。無料の公開講座をすると、多くの場合「今度は自分たちのところに教えにきて」と声があがるのです。

Q:どうやって学校や公的な機関にアプローチしたのですか?

キャサリン:
自分たちからアプローチして提供して、多くの場合は無料で提供するという方法をとりました。それから内容について質問を受けるので、何を教えるのかということを具体的に伝えるようにしました。そうすると大抵、伝える場を設けてくれます。

Q:  日本は「本音」と「建て前」のある文化と言われています。韓国ではどうですか?

キャサリン:
そうですね。特に女性には、思ったことを言うべきではないという考えが長いことありました。ですから、感情や考えを表現することが抑圧されたと感じている女性は多くいますし、NVCを学ぶことで解放されたと感じるいう声を耳にします。「正直に話しをしたら、責められたり、ジャッジ(評価・判断)されたので本音を話せない」という経験を持つ人たちもたくさんいますが、NVCを学ぶことで、本当に思っていることを伝える方法を身につけることができるのです。

カリローラ:
ベルギーでも、本音をいうことがあまり歓迎されていないと感じます。そういう時「ジャッカル語(相手や自分を責めたり悪いことを探したりするような言葉)を使って、問題を起こしちゃうことが多いんですね。だからNVCを学んで、自分の価値を大切にして、ものごとを伝えられるようになることがとても役にたってます。自己表現というのは、私たちのベーシック(基本的)なニーズのひとつなんです。幸せであるために、そのニーズを満たしていくことが大切です。自分らしく正直である時にしか、本当に深いレベルでつながりあうことはできないですし、幸せというのは、そういったことによってもたらされるのです。でも、私たちが本音を言わないことにも理由がありますよね。本音を言うことで危険な目にあったり、罰せられた経験があったり…。だから「本音を言えない」ということに対して、自己共感をすることも必要です。自分を守る必要があったのだし、それによって関係性を維持してきたのだという事実を認めて受けとめていくんです。

Q: 日本でNVCを学ぶ人たちにメッセージをお願いします。

キャサリン:
韓国では私個人がセンターを立ち上げ、そこから発展していきました。日本にNVCセンターはないですが、何人もの人たちがそれぞれアクティブに活動しています。日本ならではの展開が楽しみですね。

カリローラ:
日本のNVCコミュニティがとても強い情熱的なエネルギーによって育まれてことにわくわくしてます。いつかお目にかかれたら嬉しいですし、ベルギーにも是非いらしてください。

*本コミュニティ・ギャザリングは、「コア・ジャッカルを探して変容する」ワークショップ(主催つながりコミッティ)のためにキャサリンを招いたことがきっかけで開催されました。


(キャサリン(左)とコーディネート&レポート今井麻希子)

1 Comment

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です